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itoigawa1

Book review / 読書ノート「医療現場の行動経済学」


第2章 p12

正確な医学情報さえ与えられれば患者は合理的な意思決定ができるという前提で、多くの医師は患者に情報を与えているのではないだろうか。


第2章 p40

うまくナッジを設計することができれば、医療の意思決定のいて、医師も患者もよりよい意思決定ができる。


第2章 p42

ナッジを選ぶためには、前述のように意思決定の状況を分析して、どのような行動経済学的なボトルネックがあるのかを分析する必要がある。


第3章 p52

せっかちな人が積極的な医療健康行動を選択できないのは、将来時点で発生する健康上の利益を割り引いて評価して、現時点で発生する費用の方が大きくなってしまうからである。


第4章 p71

共有意思決定の概念は、知識や理解力に乏しい患者やその家族と共に、専門家として、例えて言うならソムリエのように意思決定支援をしていこうという考え方である。


第5章 p103

がん検診の場合、その対象となる本人にとって、がんの不利益はがんに罹患して初めて認識される。そのため、がん検診を受ける前後の時点においては、がん検診を受信することの利得が、将来発生するために大きく割り割り引かれて小さくなってしまう。


第5章 p108

ほとんどの人はがんになることを怖いと感じ、がん検診は受けた方が良いことをわかってはいるが、がんになる可能性は未来に起きうる不利益である一方、がん検診をいま受けに行くことは目の前で生じる不利益(面倒くささ)であるため、将来の不利益を割り引いて感じるので、がん検診には足が向かないという状況が生じている。


コメント

行動経済学に関する医療系の方々による事例紹介がたくさん書かれていました。


行動経済学の解釈は、生理学や物理学など他の分野にも類似した解釈があるようにも感じました。


例えば、人の体温が37℃程度になるのが都合良いくその温度はセットポイントと呼ばれることもあるのですが、セットポイントは行動経済学でいう参照点と近い概念です。

人は獲得した食物や酸素を用いて体温が37℃程度に維持しています。獲得した食物や酸素をなるべく消費はしたくないので、人体から外に熱が移動する(放熱する)状態は損失に近い状態で、人体に熱が移動する(吸熱する)状態は利得に近い状態と言えます。

さらに、人の皮膚近傍には、温度上昇を検出する温点より温度低下を検出する冷点の方が何倍も多く存在します。

すなわち、人は損失につながることに対して高感度になるような神経系を持っているのです。


また、将来のことを割り引いて考え、現在に近いことを重視する行動経済学でいう価値関数の考え方は、物理学でいうドップラー効果の考えが近いように思います。

同じ1周期(同じ金額)であっても、進行方向の後ろ側(損失側)の波長は延び(影響力が大きく)、進行方向の前方(利得側)の波長が短くなる(影響力が小さくなる)のと似ているようにも感じます。

身近な人の影響力が大きいのは、重力場の相互的な距離に置き換えて考えることもできそうですし、影響力は質量に置き換えて考えることもできそうです。


様々な名称のバイアスが紹介されていますが、「失うことや過去のことが、得ることや将来のことより、意思決定に及ぼす影響が大きい」ということを異なるフレームで見て名付けているような気もしてきました。

振る舞いを観察するフレームが生理学なのか物理学なのか、あるいは行動経済学なのかによって、異なる名称を付けているような気もしますし、行動経済学のなかでも時間・お金・人間関係などフレーム毎に同じ心理状態を異なる名称で呼んでいるようにも思います。



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